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遺言書とは? 書き方や効力を発揮するケースに関して

現在、相続をめぐる争いは非常に多く、また増加傾向にあります。仲の良かったはずの家族が、相続が生じたら一転して遺産をめぐる争いを始めた…といった話は枚挙にいとまがありません。そのような争いになっている相続のことを「争続」と言ったりもしますが、「争続」となったケースは、解決までに長期間を要する場合が多い上に根も深く、遺産分割が終結した後も家族に消えないしこりを残してしまいます。

そのような「争続」を未然に防ぐために有効な手法の一つに「遺言書」の作成が挙げられます。以下では、その概要と書くときのポイントなどについて紹介します。

遺言書とは

「人が死を前にして言い残す言葉」を書面にしたものとしては、遺書と遺言書があります。しかし、遺書には法的拘束力はありません。

一方、遺言書には法的拘束力がありますが、法的に有効な遺言書とするためには、一定の形式や条件を満たしている必要があります。この形式や条件については、後段の「法的効力を持つ遺言とは」で詳述します。

遺言書を作成する大きなメリットの一つは、民法で定められた、各相続人が受け取ることのできる相続財産の割合(法定相続分)を無視して、それとは異なる割合で、あるいは特定の財産を指定するなどして、遺言者(遺言書を作成する人)が自由に遺産を分配できる点ではないでしょうか。例えば、遺言者に子どもが複数いる場合に、ご自身や家族のために尽力してくれた子には、より多くの財産を残したいと思うことがあるかもしれません。そのような場合に遺言書を書いておけば、家族の実情に合わせて、民法の定めとは異なる割合で各相続人に遺産を配分できるのです。

ただし、相続人となる親族のうち、遺言者の配偶者、子、両親は、相続財産のうちの一定割合の受け取りを確保できる「遺留分」という最低限の防衛ラインを持っており、それよりも少ない金額しか与えない遺言を書いても、彼(彼女)らはその遺留分を取り戻す請求(遺留分侵害額請求)をすることができます。遺留分を侵害する遺言も一応有効ではあるのですが、家族間の無用な相続争いを防止するためには、遺留分を侵害しない遺言書を作ることをおすすめします。

また、相続人以外の人や法人に、遺言によって遺産を贈ること(遺贈)も可能です。世の中には相続人の存在しない方もいますが、そういった場合、遺産は国庫に属します。しかし、そういう方でも、遺贈を行うことで生前お世話になった人や法人などに財産を遺すことができるのです。

なお、遺言というと高齢者が行うものと考えがちですが、民法によれば、誰でも15歳になれば単独で有効に遺言ができますし、一度書いた遺言書の内容は後から撤回できます。自分はまだ若いから遺言書を書くには早いのではないかなどと考える必要はありません。思い立ったらぜひ一度遺言書を書いてみてください。

遺言書の種類

1.普通方式

遺言書には、いくつかの種類があります。広く一般に利用されているのは、「普通方式」と言われる次の3種類の形式ですが、いずれも書面によることを要します。中でも特によく利用されている自筆証書遺言と公正証書遺言については、後段の「遺言書の書き方」で詳述します。

 

①自筆証書遺言:遺言者自らが自筆で記す遺言

②公正証書遺言:公証人の関与のもと作成される遺言。証人2名が必要

③秘密証書遺言:亡くなるまで遺言内容を秘密にしておける遺言。自筆で署名・押印した遺言書を密封した後、公証人にその存在を証明してもらい、自身で保管する。公証人による証明の際には証人2名が必要

2.特別方式

遺言者に死の危機が迫った状況下などで行う「特別方式」の遺言には、次の4種類があります。切迫した状況下なので、例外的に口頭での遺言が有効なものとして認められます。普通方式との一番の違いは有効期限が設けられていることです。

これら特別方式の遺言は、特別な状況下であくまで一時的に利用されるものであり、その後遺言者が回復したりして普通方式の遺言をできるようになってから6か月経過した場合は無効になります。

 

①一般危急時遺言:病気などのため死期の迫った人が行う遺言

②難船危急時遺言:船舶や飛行機を利用していて死亡の危急が迫った人が行う遺言

③一般隔絶地遺言:伝染病などで隔離された場所にいる人が行う遺言

④船舶隔絶地遺言:船舶に乗っていて陸地から離れた場所にいる人が行う遺言

法的効力を持つ遺言書とは

法的に有効な遺言書とするためには、一定の形式や条件を満たしている必要があります。

まず、遺言は、遺言書として紙に書かれたものでなければならず、音声を記録した媒体などでは有効な遺言とはなりません。

また、遺言は本人が単独でしなければなりません。従って、代理人によって遺言を代行してもらうことはできません。さらに、遺言書に記す内容で法的な効力を持つのは、下記のとおり財産や身分などに関する内容に限られます。

 

①相続分の指定:民法の定めと異なる遺産の取り分(相続分)を指定できる。

②遺産分割方法の指定:特定の財産を特定の相続人に相続させたり、分割方法の指定を第三者に委託したりできる。

③遺留分侵害額請求方法の指定:遺留分侵害額請求の対象財産や相手方が複数ある場合、どの財産や相手方から請求できるか順序を指定できる。

④遺贈:法定相続人でない人や法人に遺産を贈ること(遺贈)ができる。

⑤信託の設定:遺言によって信託を設定することができる。

⑥婚外子の認知:入籍していない男女の間の子を、遺言で認知できる。

⑦後見人等の指定:信頼できる人を未成年者の面倒を見る人(後見人)に指定できる。

⑧相続人の廃除又は取消し:遺言者に暴力や著しい侮辱などをした者を相続人から除外(廃除)したり、過去にした廃除の取消しをしたりできる。

⑨遺言執行者の指定:遺言の内容を実現する手続きを行う人や法人をあらかじめ決めておける。

⑩祭祀主宰者の指定:お墓や仏壇などの祭祀財産を引き継ぎ、守っていく者(祭祀主宰者)を指定できる。

⑪生命保険金受取人の指定・変更:既存の生命保険契約について、保険金受取人を指定したり、変更したりできる。

 

なお、法的な拘束力はありませんが、遺言書の末尾に付言事項といわれるコメントを付け、どうしてそのような相続分を指定したのかを遺族に知らせたり、世話になった家族への感謝を伝えたりすることもできます。遺言で指定された財産の配分方法が家族への思いやりの表れなのだと付言事項を通じて伝えることができれば、無用な争いを招くこともなく、むしろ家族の絆が深まるかもしれません。

無効になってしまう遺言書とは

前章とは反対に、法的に無効な遺言書となってしまうケースを紹介します。

1.口頭による遺言

原則として無効です。しかしながら、公正証書遺言では、自身は筆記ができなくとも公証人に口頭で内容を伝えれば有効な遺言書を作成してもらうことができます。ただし、当然のことながら書面にはする必要があります。

また、本人に危険が迫っていて書面作成の余裕がない際に行う特別方式の遺言(一般危急時遺言)でも、口頭での遺言が有効なものとして認められます。

ただし、この場合も、証人3名の立会いが必要な上、そのうち、遺言を聞き取った人がその内容を筆記する必要があるなど、一定の手続きが必要です。

2.映像・音声による遺言の記録

遺言の要件を満たさない(全文自署でない、署名がない、押印がないなど)ため、無効な遺言となります。

3.単独によらない遺言

遺言書作成に当たっては、他者からの同調圧力が排除され、間違いなく本人の意思の表れであることが担保されなければならないため、どんなに仲の良い人同士でも、共同で一つの遺言書を作成すると無効となります。

有効な遺言とするためには、それぞれが単独に別々の遺言書を作成する必要があります。

4.その他、作成に瑕疵(欠陥)のある遺言

遺言をするためには、遺言内容がどういった性質のものかを正しく把握する能力(遺言能力)が必要です。よって、遺言能力のない人が書いた遺言書は無効となります。15歳未満の人や、脳や精神の疾患で物事を弁識する能力を欠いた人は有効な遺言ができないとされています。

もし、遺言書を作成しようとする方が疾病等で遺言能力に疑いがある場合、後になって第三者から遺言書の欠陥を指摘されないように、医師の診断書を添えて、かつ公証役場にて公正証書で遺言を作るなど、できる限り公正な手続き・方法で遺言書を作成することをおすすめします。

また、遺言者本人の意思によらず、相続人が詐欺、脅迫等によって書かせた遺言書は無効であり、そのようなことをした相続人は相続の権利も失ってしまいます。

遺言書の書き方

以下では、遺言書の中でも作成されることの多い自筆証書遺言と公正証書遺言の書き方について説明します。

1.自筆証書

自筆証書遺言とは、遺言者自身が手書きで記す遺言書のことです。

使う用紙は自由です。筆記用具は消去しにくいものを用います。筆記は全て自ら手書きで行わなければなりません。ただし、近年の相続法改正により、財産目録の部分はパソコンで作成したり、通帳のコピーを添付したりしても認められるようになりました。

内容は何を書いても構いませんが、法的効力を持つのは財産・身分などに関することですので、通常は、誰にどの財産を相続させるのか、あるいはどれくらいの割合の財産を相続させるのか、遺言執行者に誰を指定するのか、自らの逝去により養育等に当たる人がいなくなる未成年者が家族にいる場合は誰にその子の後見人を任せるのか、などといった重要な事項を中心に構成することになります。なお、日付と署名押印のない遺言は無効になりますので、忘れずに盛り込みましょう。

自筆証書遺言は、他の形式の遺言書のように作成に当たって証人に立ち会ってもらう必要もない上、あまり費用をかけずに作成できるメリットがあります。その反面、自分で作成するため、内容が不十分で法的要件を満たさず無効となったり、家庭裁判所による検認(遺言書の存在と内容を確認する手続き)を受ける手間を要したりするというデメリットもあります。また、できあがった遺言書は、基本的には自分で保管することになりますので、紛失したり、誰かに破り捨てられたり、内容を改ざんされたりするおそれもありました。

ところが、前述した相続法の改正によって、2020年(令和2年)7月10日から法務局で自筆証書遺言を保管してもらえる制度がスタートしました。この制度を利用した場合、家庭裁判所による検認は不要となります。また、保管に当たっては、日付や署名押印の有無などの外形的な確認も行われます。自身が亡くなるまで法務局で確実に遺言書を保管してもらえますので、自筆証書遺言の弱点がかなり改善されることになりました。しかしながら、肝心の遺言内容が法的に有効かまでは確認が及ばないため、自身の死後、実際に遺言が有効なものとして機能するかは、遺言者の作成の仕方次第となりますので注意が必要です。

2.公正証書遺言の書き方

公正証書遺言とは、公証人の関与のもと、公正証書で作成される遺言書のことです。

この方式は、将来遺言を有効に実現させる上で、現在のところ、最も確実な遺言書と言えるでしょう。

まず、法律の専門家である公証人(元裁判官や元検察官等)が、形式や内容の法的有効性をきちんと確認し、遺言書の文章をあらかじめ用意してくれますので、無効な遺言となる可能性を限りなく低くすることができます(ゼロではありません)。

また、遺言者は、遺言書の内容を口頭で述べさえすれば、自ら内容を筆記する必要はなく、事前に公証人が作成した遺言書の内容を確認し、最後に自ら署名、押印すれば良いので安心です。病気等で話せない人、耳の聞こえない人、署名できない人も、筆談や通訳人による通訳等で意思を確認して遺言書を作成することができます。作成された遺言書の写し(正本・謄本)は、遺言者に手渡され、原本は半永久的に公証役場に保管されるので、遺言書が紛失する心配もありません。

ただし、公正証書遺言にもデメリットはあります。作成には法律で定められた費用を支払う必要があり、その金額は、各相続人・受遺者(遺贈を受ける者)が受け取ることになる財産の価額やそれらの人数などによって変動します。

また、押印は実印で行い、印鑑登録証明書の提出も求められます。加えて、受遺者となる法人や相続財産に含まれる不動産の登記事項証明書や、親族関係を確認するための戸籍謄本類の提出が必要となる場合もあります。そして、作成当日には、利害関係のない証人2名の立ち合いも必要です(証人がいない場合、公証役場を通じて用意してもらうこともできます)。

しかし、以上の事情を考慮に入れても、公正証書としての信頼性と安定感から、公正証書遺言が現時点で最も確実かつ魅力的な遺言の方式であると言っても過言ではないでしょう。

全体のまとめ

上述のとおり、遺言書では、民法で定められた相続分に囚われることなく、より家族の実情に沿った形で財産の配分方法を指定することができます。

また、付言事項において、どうしてそのような配分にしたのかを遺族に知らせたり、世話になった家族への感謝を伝えたりすることもできます。

遺言書と聞くと、死を連想させ縁起が悪いなどとついつい思いがちですが、上手に活用すれば、相続争いを防いで家族の絆を保つという前向きな効果が得られるのです。また、そうした書面を作っておくことは、他でもないご本人にも、大きな安心感に包まれた後半生をもたらすことでしょう。

当センターでは、「遺言信託サポート」という公正証書遺言の作成を支援するサービスを提供しており、多くの方から、「長年の懸案が解消できた」「これで安心して暮らせる」とのお声をいただいています。このコラムを読まれたことが、こうしたメリットのある遺言書の作成をご検討いただくきっかけとなれば幸いです。

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